中国の豆乳事情

豆乳は、近年、日本ではいたるところで販売されており、すっかり一般的な飲み物として定着しています。いまでは、知らない人がいないほど、豆乳は、多くの人に愛飲されていますが、その原型の豆腐羹が誕生したとされているのは鎌倉時代にさかのぼります。

実際に豆乳として、商品化されたのは戦後の1975年前後以降ということですから、豆乳は、飲み物としては、意外と歴史が浅い飲み物と言えます。その間、何度も何度も製法の改良を重ねて、現在の美味しい豆乳が誕生しました。

それでは、一体どこで、誰が一番最初に豆乳という飲み物を考えついたのでしょうか。それには、さらに時を遡る必要がありそうです。

中国の豆乳の起源

その歴史を紐解いてみると、豆乳に関する最も古い記載は、中国で発掘された一枚の石板だそうです。そこには、厨房で豆乳を作っている人々の様子が刻まれています。この石板は中国の後漢時代、つまり1800年以前のものですから、その頃には中国ではすでに、豆乳が存在していたと言えます。

一体誰が考えついたのかについては、もう少し時を遡ってみましょう。

そもそも、豆腐という食べ物は、今から1900年前に、中国の劉安(りゅうあん)という人物が初めて作ったと言われています。そして、中国では一般的に、この劉安という人が同時に豆乳も発明したと考えられているようです。

▲豆乳を挽くための石臼

劉安は、前漢の皇族として生まれ、淮南王(わいなんおう)という、現代でいう爵位の称号も与えられ、様々な逸話を残しています。中国の史書の多くに、彼が豆腐を発明したという記載があります。そして、その豆腐の製作には豆乳を使用する必要があることから、彼が豆乳も発明したのではないか、と結論付けているのです。また、劉安の逸話の中に、病気の母のために、毎日漬け込んだ大豆を挽き、豆乳にして飲ませていたら、母の病気が治り、豆乳も世間に広まったという話もあります。劉安の親孝行のおかげで、今、私たちは美味しい豆乳が飲めるようになったのかもしれません‥・。


中国では、豆乳は「豆漿」(とうじゃん)といいます。昔の豆漿は製作する過程が簡単で、大豆を石臼で挽けば出来上がったので、豆腐屋でも広く扱われていたそうです。古代中国では、安くておいしい豆腐は貧しい家庭に特に人気な食べ物で、しばしば肉の代替品として食卓に並べられていました。

▲動物からミルクを搾る遊牧民族

ちなみに、中国でも牛乳の方が、豆乳より先に誕生しました。主に牛乳を飲んでいたのは、遊牧民族とされています。そのため、実は多くの古代中国人は、牛乳や牛乳製品の生臭さを苦手としていました。また、当時は乳用牛の養殖が少なく、牛乳が高価だったのも一因で、牛乳より豆乳の方がたくさん飲まれていたようです。

中国豆乳の最前線

長い歴史を経て、豆乳は、今では中国の伝統的な飲み物になっています。最もスタンダードな豆乳は、中華風の朝食には欠かせない飲み物です。また、歴史と共に、豆乳の様々なバリエーションも生まれました。例えば、ポピュラーな豆乳には、砂糖を加えた甘い豆乳と、塩や醤油などを加えたしょっぱい豆乳があります。他に、「ピーナッツ豆乳」や「ナツメ豆乳」、「黒豆豆乳」なども、身体によく、美味しいと人気の家庭レシピです。

▲中国の伝統的な朝食

さて、植物性ミルクが世界的に注目されている今、中国では、タピオカミルクティーが食文化のひとつとして盛んですが、タピオカだけではなく、豆乳や豆腐を使用した飲み物のメニューも続々と登場しています。

今回、ご紹介する店は「半仙豆夫」(はんせんとうふ)です。ここは、豆乳や豆花(トウファ)、豆乳アイスクリームなどを販売している豆乳専門店で、身体にも良いと中国では話題のブランド店です。中国では、タピオカ屋といったドリンクスタンドブランドの競争は日本よりも激しいです。タピオカ入りのミルクティーのみならず、ミルクティ―ドリンクはますます進化を求められています。飲み物だけでなく、食べ物としても楽しんでもらえるように、様々な工夫がされるようになりました。

▲半仙豆夫のウェイボより。上のお団子がトレードマーク

そんな中で、「半仙豆夫」の代表的な人気メニューが「白玉豆乳チーズティー」です。きな粉を塗した白玉団子がちょこんと上に乗っており、「食べてから飲む」という楽しみ方が店のおすすめだそうです。そして、お団子を食べている間に、まろやかで濃厚な豆乳チーズフォームが少しずつ下のお茶に溶け込み、コクのある味わいに変化していきます。和風を取り入れて、見た目もかわいらしく、思わず注文したくなるメニューです。

中国の通販大手アリババが発表したデータによれば、2020年、豆乳を含む植物タンパク質飲料の種類が、去年より市場で800%増加しているとの結果が出ています。こうして見ても、豆乳を代表とする植物性ミルクの人気の高まりが伺えます。古くから伝わってきた中国の豆乳ですが、これからは今の時代に寄り添った、新しい豆乳の飲み方がさらに増えそうです。

…ということで、今回は中国の豆乳事情についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。次回は、タイでの豆乳をご紹介する予定です。是非お楽しみに。

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