豆乳の良さとアレルギーに関する注意点について、農学の専門家に聞く

豆乳は今や健康に役立つ飲料として広く認知されていますが、具体的にどのような点が有益なのでしょうか?また、牛乳アレルギーの人が、代替品として豆乳を飲用していることも知られています。しかし、大豆もまた食物アレルギーを引き起こす原因食品の一つで、豆乳を飲むとアレルギー症状が出るという人もいます。このように、豆乳の利点と注意すべき点などを正確に理解することは、豆乳を暮らしに取り入れるためには大切なことです。

日本豆乳協会の技術部会では、大豆や豆乳類の機能性や安全性(アレルゲン性)に関し、近畿大学農学部の教授 森山達哉先生にその研究の一部を委託しています。そこで今回は、森山先生をゲストにお招きし、豆乳の機能性と安全性について、お話しをうかがいました。


▲今回は、新型コロナウィルスの状況を鑑みて、オンラインで取材に対応していただきました。

最初に、先生が取り組んでおられる研究テーマについて教えてください。

森山先生:私の研究テーマは食品成分の機能性と安全性についてです。食品の中でも、対象は大豆や果物などの農作物です。また、安全性という概念も広いですが、私は主にアレルゲン性の研究をしています。

この研究を始めてどれくらいになりますか?

森山先生:私は、農学部の食品工学科を卒業後、一貫して食品と健康に関する基礎研究と応用研究を行ってきましたが、大豆などの農作物に焦点を当てた応用研究を始めたのは、約20年前になります。

豆乳の栄養面や優位性について、主にどのようなところに注目していますか?

森山先生:大豆はもともと他の農作物と比べても、特記すべき栄養価や機能性、加工特性など、様々な点で優位性がありますので、大豆は特別な農作物と言えます。日本は昔から大豆消費国なので、大豆に関する研究も盛んでした。しかし、近年では、海外の研究者も大豆の優位性に着目し、世界中で研究が盛んになってきました。そこで改めて、日本でもしっかりと大豆の研究を行っていく必要があると感じています。

豆乳はメタボにも効果があるといわれていますが、先生の研究によれば、豆乳のどんな成分に、どんな効果が期待できますか?

森山先生:まず、豆乳は薬ではなく、食品なので、効果・効能という言い方で表現することは注意が必要です。もちろん、昨今では機能性表示食品やトクホなど、食品でも健康に対して一定の効果・効能が科学的なエビデンス(証拠)をもって認められているものもあります。一般に、食品において、ある一定の効果があるという場合、どのレベルで実証されているかという点に注意が必要です。動物レベルや、細胞レベルで効果があっても、人間の体にも適応しうるかという点について確証はありません。

しかしながら、大豆(豆乳)の場合は、ヒトレベルでのエビデンスがあります。その一つ目の成分が大豆たんぱく質です。大豆たんぱく質全体でも認められていますし、そこに含まれているβ-コングリシニンという成分でも効果が確認されています。日本では、ヒトにおいて大豆たんぱく質はコレステロールを低下させることがトクホとして承認されていますし、米国では心臓病の予防に有益ということが、FDA(米国食品医薬品局)によって承認されています。β-コングリシニンは特に中性脂肪を下げる働きがあり、日本では機能性表示食品として届け出が受理されています。

二つ目の成分は、イソフラボンです。これも多様な機能性が知られていますが、ヒトレベルでのエビデンスがあるのは、閉経後の女性の骨粗しょう症の予防や更年期障害(不定愁訴)の予防・改善に役立つ、ということが知られています。また、イソフラボンは、メタボや脂質代謝などに対しても一定の効果があるということは、動物実験レベルでは証明されています。ただ、イソフラボンが、より効果のあるエクオール(※)に代謝できる人とできない人がいるので、個人差はあります。日本では、約半分の人が代謝できる腸内細菌を持っているので、そういう人は効きやすいようです。エクオールのサプリメントを販売している製薬メーカーもありますし、美容効果でいえば、しわの改善についてヒトでの効果が見いだされています。

そのほかにも、大豆(豆乳)の中のサポニンには、抗酸化能や血圧低下作用、肥満予防効果、亜鉛吸収促進能などが主に動物実験や細胞実験で報告されていますし、レシチン(リン脂質の一種)も、認知機能への効果や脂肪肝予防などの働きが示唆されています。

このように、大豆に含まれる一つ一つの成分については、様々な働きがあるのは知られていますが、実際に豆乳を飲むことで、全ての効果が期待できるかと言えば、摂取する量にもよりますし、豆乳以外の食生活や遺伝要因、環境要因などが複雑に関与するため、ヒトにおける食品の機能性の評価は難しいのが現実です。ただ、大豆の摂取量が少ないことは健康にとって良くないことは疫学的にも明らかですので、そういう人が豆乳によって美味しく手軽に大豆を摂取できることは大きなメリットと考えています。

※「エクオール」は、大豆イソフラボンが、腸内細菌の力で変換されて生まれる成分で、女性の健やかさと、美しさを保つことが期待されています。


それでは、生活者の視点からアレルギーについておうかがいします。乳や卵、小麦などと比べ、大豆のアレルギーは少ないですが、大豆アレルギーの人たちに対して、何か注意することはありますか?

森山先生:そうですね、大豆が原因の食物アレルギーは、食物アレルギー全体の中でも、数%程度で、頻度としてはかなり少ないと言えます。また、重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシーの原因となる頻度も全食品中で1-2%程度とかなり少ないのが現状です。従って、乳や卵、小麦、ソバ、エビ、カニ、ピーナッツなどと比べると大豆アレルギー患者は少数派と言えます。ただし、大豆のアレルギーには、多様性があり、この点で少し注意が必要となります。

大豆アレルギーは大きく分けて2通りあります。クラス1とクラス2の食物アレルギーという呼び方をすることもあります。クラス1の方は、大豆そのものによって抗体ができてしまうもので、発症するのは子供が多く、下痢や蕁麻疹など、比較的、全身に症状が出るケースが多くみられます。この場合、しばらくは大豆(豆乳)を除去し、年齢と共にだんだん食べられるようになることが一般的です。ただし、その場合でも少しずつ大豆を食べる必要があります。このタイプの大豆アレルギーの人は、基本的にはどんな大豆食品でも発症リスクがあるので、わかりやすいと思います。

クラス2の方は少しややこしく、ある種の花粉症の方において、花粉アレルゲンに対して産生された抗体が、花粉のアレルゲンと大豆のアレルゲンで交差反応を起こし、間違って体が反応してしまう大豆アレルギーです。この場合は口の中や耳の奥がかゆくなったり、顔(特に目周辺)が腫れたり、のどが締め付けられたり、など、主に首から上に症状が出ることが多いと報告されています。

このタイプの大豆アレルギーは、今まで大豆食品を食べていたのに、突然発症する可能性もあります。あるいは、他の大豆食品は食べることができているのに、豆乳を飲んだり、柔らかい豆腐を食べたときなどに突然発症するという可能性もあるのです。ただ、このタイプの大豆アレルギーの場合は、ある種の花粉症に罹っていることが大きな発症要因になっていますので、花粉症が無い方は問題ありません。やや重い花粉症がある方の場合は、豆乳を飲むときに、一気に飲まないで少しずつ飲んで、大丈夫かどうかのチェックをしたほうが良いかもしれません。

長年花粉症持ちで、豆乳も飲んでいるという人も、大豆アレルギーになる可能性があるということですか?

森山先生:一般的に、シラカバ・ハンノキ属の花粉症歴が長ければ長いほど、そして症状が重ければ重いほど、豆乳を飲んだ時の大豆アレルギーの併発リスクは高くなると言われています。抗体ができていても、抗体の量が増えて、ある一定の量を超すと反応することがあるので、今までは大丈夫でも急に発症することがあります。特に、この花粉症の季節である春は抗体が増えているので、春に発症する方も多いようです。ただし、日本で最も一般的な花粉症であるスギやヒノキの花粉症の場合は、大豆との交差反応はほとんどありません。自分がどの花粉症に罹っているかを知りたいときには、医療機関で検査をうけることが出来ます。

花粉症の人が、一度大豆アレルギーになった場合、治りますか?

森山先生:はっきりとした回答はできませんが、このタイプの大豆アレルギーは比較的長く続くと言われています。

その場合、豆乳や納豆は摂取できなくなりますか?

森山先生:花粉症に関連するクラス2の大豆アレルギーの場合は特に、摂取して発症しやすい大豆食品には差があります。口の粘膜に液体状の濃いものが接するということから、豆乳は濃いほどアレルギーの発症率が高くなりますが、フルーツ豆乳や調整豆乳などの薄めの豆乳なら発症しないという場合もあります。また、味噌や納豆、醤油などの発酵大豆食品については、原因となるアレルゲンが分解・変性しているので、クラス2の大豆アレルギーのリスクはほとんど無いと考えられます。

昔は今ほどアレルギーの問題はなかったように思いますが、これも食生活の変化によるものですか?

森山先生:これに関してはいろんな説があります。一番有力なのは「衛生仮説」です。これは、環境がきれいになりすぎた結果、この環境で生まれた子供の免疫バランスがアレルギーを起こしやすいものとなっている、という仮説です。最近では分子レベルでこの仮説が実証されつつあります。環境がきれいになることで、感染症は減っていますが、代わりにアレルギーが増えています。よって一般的に先進国は、発展途上国と比べてアレルギー問題が多いようです。

▲今回は、新型コロナウィルスの状況を鑑みて、オンラインで取材に対応していただきました。

豆乳を飲み続けて、腸内環境を整えることで、新型コロナウイルス対策になる可能性はありますか?

森山先生:この場合も、先ほどの食品の機能性で説明した通り、明確な回答はできません。しかし、免疫を高めるという点においては、可能性はあると思います。免疫にとって大切な栄養素としては、タンパク質が挙げられます。通常の食生活をしている場合は免疫機能が低下するようなタンパク質不足に陥ることはほとんどありませんが、高齢になり、十分な食事が取れない場合や、過度のダイエットを行っているような状態では免疫機能の低下をもたらすようなタンパク質不足が起こりえます。そのような時に、液体状で摂取しやすく、良質の植物性タンパク質が豊富な豆乳を食生活にプラスすることで、免疫機能の低下を防ぐことが出来ると思います。また、大豆に豊富な食物繊維や、大豆オリゴ糖などが善玉の腸内細菌を増やすことも期待でき、腸内環境を整えることによって、結果的に免疫機能が改善されることは十分にあり得ると思います。ただしそれによって新型コロナウイルス感染に対する抑制効果が生じるかどうかは、エビデンスがありませんので明言できません。

コロナ禍ということもあり、人々の健康意識はさらに高まっています。メタボの予防という観点から、中高年に対して、おすすめの豆乳の飲み方を教えてください。

森山先生:そうですね、まず、普段牛乳を飲んでいる方は、その半分程度を豆乳に置き換えることで、牛乳の良さと豆乳の良さを両方得られると思います。牛乳と比べて豆乳の方がカロリーも低く、様々な機能性成分が入っており、コレステロールもフリーという点が牛乳と比べて豆乳のメリットといえます。実際、私も牛乳と豆乳を1:1に混ぜて「豆乳オーレ」として飲んでいます。独特のコクもあり美味しいですよ。そこにコーヒーを入れることもオススメです。また、豆乳は腹持ちが良いので、食事の前に豆乳を一本程度飲むと、結果的に食事の量は減り、大豆の良い成分も摂取できます。また、糖の吸収も緩やかにする効果も期待できます。

あとは、継続的に飲むことですね。イソフラボンは体内では比較的、速く代謝され排泄されますので、体内にたまりにくいのです。定期的に飲むことによって、有効な血中濃度を保つことが期待できます。

最後に、先生の研究の課題や、今後の研究の方向性について、何か共有できることがあれば教えてください。

森山先生:大豆は様々な機能性成分の宝庫のようなもので、「天然のサプリメント」とも言えます。そのため、まだまだ未知の機能性もあると思っています。そんな未知の機能性を、これからも明らかにしていきたいと思います。また、高齢化社会を迎えて、アンチエイジングや認知機能、運動機能、ロコモ・フレイル予防などの幅広い機能性の評価も進めたいと思います。あとは、大豆アレルゲンのリスクの変動解析やリスク低減法の開発なども重要なテーマと考えています。いずれにしても、古くから重宝されている大豆のメリットを最大限に生かし、現代の人々の健康や暮らしのQOLを高めることができれば、と思っています。


森山先生、豆乳や大豆に関する有益な情報と知識を共有していただき、ありがとうございました。

今後の研究成果にも期待しております。

森山先生の経歴や研究活動については、近畿大学のホームページをご参照ください。

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