イソフラボン研究者に聞く-豆乳の栄養成分や効果について-
今回は、東京農業大学で食品機能学に関する研究をされており、イソフラボン研究者として著名な上原万里子教授に、豆乳の可能性や期待できる効果について、お話しをお聞きしました。
自己紹介をお願いします。
上原先生:東京農業大学の応用生物科学部、食品安全健康学科の教授を務めています。食品安全健康学科は、食品の機能性と安全性を両輪で学ぶ学科です。私は、食品機能学の中でも、骨粗鬆症予防という点で、骨代謝を制御して骨粗鬆症予防に寄与するような植物由来の成分、特にイソフラボンとその代謝産物等を専門に研究しています。
そもそも豆乳の成分について、基本的なことを教えていただけますか?
上原先生:大豆には、様々な有効成分がありますが、たんぱく質の質を評価するアミノ酸スコアが高いのが特徴です。そして、大豆のたんぱく質部分を分離してきたのが豆乳と言えるでしょう。
豆乳は体内で生理機能を発揮するペプチド、必須脂肪酸、ビタミンやミネラルを豊富に含んでいる優れた食品(飲料)です。特に、豆乳に含まれている女性にうれしい成分は、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンです。豆乳の製法によって多少の変動はありますが、豆乳100ml中には約25mgの大豆イソフラボンが含まれています。
それでは、先生がご専門の大豆イソフラボンについて、教えてください。
上原先生:私は、「大豆イソフラボン」の研究をしていますが、体内で代謝されてできてくる「エクオール」に着目しています。「エクオール」は、主要な大豆イソフラボンである「ダイゼイン」が腸内細菌によって代謝されて生み出される成分です。体内から、エクオールを生み出す(産生する)ためには、元となる大豆イソフラボンの摂取が必要ですが、全ての人がエクオールを産生できるわけではなく、ダイゼインからエクオールに変える腸内細菌や腸内環境を持っているということが重要です。
日本人は、ほぼ半数がエクオール産生者ですが、最近の若者は30%位に減少してきているという報告もあります。
大豆イソフラボンは、豆乳などの大豆を原料とする食品のほとんどに含まれます。エクオールを体内で産生できる人の方が、様々な疾病リスクが低いといわれており、例えば、乳がんや前立腺がんの罹患リスクも低いという研究結果も出ています。
もちろん、メタボにも有効で、糖尿病、冠動脈疾患とか動脈硬化に対しても予防の可能性があるといわれています。
また、更年期症状の軽減、骨の減り方が緩やかになる等、様々なリスクが軽減されるという研究結果が発表されています。女性は更年期を迎えると女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します。イソフラボンはエストロゲンに似た作用があるため、「閉経後の女性にもお薦め」です。抗酸化作用もあり、細胞を傷つけ老化の原因となる活性酸素の働きも抑制します。
さらに、大豆(豆乳)には同じ抗酸化作用を持つサポニン、血流を促して、肌の新陳代謝を促すビタミンB群、Eまで含んでいるのです。
エクオールを生成しやすい体質かどうかは、どのようにわかるのですか?
上原先生:専門機関で検査をする必要があります。遺伝的な素因もありますが、食生活も関係しています。エクオール産生の有無は腸内細菌叢と腸内環境にも関係がありますので、私は、豆乳と組み合わせて一緒に摂取することで、エクオール産生を増加させるような食材の研究をしています。
プレバイオティクスと言われているフラクトオリゴ糖は、特保にもなっていますが、小腸では消化吸収されず、大腸で発酵するタイプの糖です。まだ研究過程ですが、これを一緒に摂取することで、もともとのプレバイオティクスの機能(ビフィズス菌などの有用菌(プロバイオティクス)の増殖)に加え、発酵によりエクオールが生成量も増えるのではないかと考えています。
豆乳と相性の良い食材があれば、教えてください。発酵食品と一緒に摂取するとよいという話をききますが。
上原先生:通常、豆乳のような植物性食品中のミネラルは不溶性の塩(えん)の形になっていて吸収されにくいのですが、酸性下では可溶化(イオン化)して吸収されやすくなります。キムチのような発酵食品は酸性なので、原理的には、不溶性ミネラルを可溶化する可能性があり、キムチにはビタミンCも豊富なので、特に鉄の吸収には効果的だと思います。
また、例えばシチューを作るときに牛乳よりもカロリーの低い豆乳を使う場合、豆乳中のミネラルは量的には多いものの、先程も言いましたが、あまり吸収が良い形ではないので、肉や魚介類などを入れて、吸収の良いヘム鉄他、動物性食品由来のミネラルを補うこと、豆乳には大豆中の食物繊維がほとんど含まれていないので、野菜を加えることもお勧めします。
先生は、豆乳を飲むことがありますか?
上原先生:はい。私は、豆乳愛飲者で、ほぼ毎朝飲んでいます。ヨーグルト等の発酵系のものに豆乳を混ぜたり、青汁、トマトジュースに混ぜて飲んだりしています。
閉経後の女性では、肌の表皮が薄くなっているので、真皮のコラーゲンや皮膚の水分量が減少しますが、イソフラボンは、それを抑制する効果が期待されています。それはイソフラボンの形がエストロゲンに似ているからだと思います。エクオールの場合は、抗炎症作用や抗酸化作用も強いので、様々な慢性疾患を予防するのですが、皮膚の老化を抑制したり、目尻のシワの面積を減少させるという報告がある点も魅力的ですね。