「豆乳×コーヒー」が肝臓を救う? いま注目の“飲む予防医学”とは ~がん研究の専門家・増富先生に聞く、脂肪肝とたんぱく質の深い関係~
今回は、国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野 分野長 増富健吉先生にお話をお聞きしました。

日本豆乳協会が昨年実施した消費者調査の結果によると、若年層におけるソイラテ人気が高まっており、同市場のさらなる拡大が見込まれていることが分かりました。以前であれば、「カフェラテをヘルシーにしたものがソイラテ」であり、あくまで「牛乳の代替」として、ソイラテを選択する人が多かったのですが、ここにきて、ソイラテを選ぶ層が増えています。つまり、豆乳で淹れたカフェラテ「ソイラテ」が選ばれる理由、そして、コーヒーが肝臓がんリスクを下げる、さらには、豆乳が脂肪肝の予防に“効く”と言われるのはなぜかなのか?
今回は、がん研究において第一線で活躍する増富先生に、コーヒーと豆乳、それぞれの健康効果と、脂肪肝を巡る現代的な課題について伺いました。
■ コーヒーを飲む人に肝臓がんが少ない理由とは?
── まず、「コーヒーを飲む人は肝臓がんの発症率が低い」という話を聞いたのですが、本当ですか?
増富先生:はい。実際に、コーヒーを飲む人と飲まない人で比較すると、コーヒーを飲む人の方が有意に肝臓がんの発生率が低いという疫学データが出ています。ただし、そのメカニズム、つまりなぜそうなるのかはまだ完全には解明されていません。有力な説としては、コーヒーに含まれるクロロゲン酸という成分が抗酸化作用をもち、発がんを抑制する可能性があるというものです。しかし、これはあくまで仮説の段階で、分子レベルでの作用は明らかにはなっていません。
■ 「魚の焦げは良くない」という日本では有名な学説:化学発がん研究
── がん研究における疫学の意義についても教えていただけますか?
増富先生:はい。がん研究では、がん患者さんの特徴や傾向を見るという「疫学」が非常に重要な研究のスタート地点になります。たとえば歴史的には、イギリスで煙突掃除夫に膀胱がんが多かったという報告が、煙突に貯まるすすの中に存在する化学物質による「化学発がん」の発見のきっかけになりました。「化学発がん」に関しては、日本では、「焦げた魚を食べるとがんになる」という話を聞いたことがある人も多いと思います。これは実際に、築地で買ってきた魚を焼いて、ラットに食べさせるという実験をした私達の大先輩の先生が、「魚の焦げに含まれる化学物質の」発がん性が確認されました。その辺りの研究が、「焦げとがん」の常識を作った背景です。
■ ウイルス発がんから“過栄養”発がんへ――現代型肝臓がんの正体
── 現代の肝臓がんの原因は変わってきているそうですね?
増富先生:そうなのです。10から15年くらい前まで、肝臓がんの主な原因はB型・C型肝炎ウイルスなどの肝炎ウイルスが引き起こす肝硬変が原因で肝がんになる患者さんが大勢を占めていました。
ですが最近では、**脂肪肝、特に非アルコール性脂肪肝(NAFLDやNASH)**が注目されています。つまり、お酒もウイルスも関係なく、食生活だけで肝臓がんの発生が高率の起こりやすい肝硬変に至るケースが増えてきたということです。
■ 脂肪肝は生活習慣病 ―「γGTPが高い」は要注意?
── 脂肪肝とは、どのような状態ですか?
増富先生:簡単に言うと、過剰に摂取した栄養(カロリー)が肝臓に脂肪として蓄積された状態です。これはいわゆる「生活習慣病」の一つと考えてよいと思います。健康診断でよく話題になるγ-GTP(ガンマGTP)という数値ですが、これが高い人は、アルコールだけではなく脂肪肝の可能性もあるのです。脂肪肝が進行すると、やがて肝硬変になり、そこから肝臓がんが発生するリスクがあります。ウイルスやアルコールがなくても、現代人は“食べすぎ”によってがんに近づいてしまう時代になったのです。

■ その脂肪肝を防ぐカギは、「たんぱく質」と「運動」
── では、脂肪肝を予防・改善するにはどうしたら良いのでしょう?
増富先生:日本肝臓学会のガイドラインでは、まず「運動」、と「炭水化物もしくは脂質が制限された食事の処方」が推奨されています。個人的な意見ですが、たとえば大豆製品や豆乳の摂取は、脂質を控えながら必要なたんぱく質を摂るには非常に優秀な食品だとおもいます。たんぱく質を摂取するとなると、動物性食品ではどうしても脂質がついてきてしまいがちなのです。
でも植物性なら、高たんぱく・低カロリーでエネルギーバランスがとりやすいからです。
■ ソイラテは「飲む予防医学」になるかもしれない
── コーヒーと豆乳を組み合わせた「ソイラテ」に注目が集まっています。
増富先生:先ほど話しましたが、疫学研究のレベルですがコーヒーを多く飲むヒトは、飲まないヒトに比べると肝がんリスクを下げる可能性がある。豆乳は動物性タンパク質の摂取よりも高率的に高タンパク低カロリー食を実践できる。すなわち、脂肪肝予防の観点からお進めの食材の一つである。そう考えると、「ソイラテは肝臓によい組み合わせ」と言ってもよいのではないでしょうか。具体的には豆乳200mlあたり、約7gのたんぱく質が摂れます。成人が1日に必要なたんぱく質量は、体重60kgの人なら約70g程度。
意識していないと、私たち日本人は慢性的なたんぱく質不足に陥っているのです。
■ 食の選択が未来の健康をつくる
── 最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
増富先生:健康は、日々の選択の積み重ねです。“おいしいから”“流行っているから”だけではなく、“体にとって何が必要か”を考えて食べる。そんな意識が少しずつ広がれば、生活習慣病も未然に防げるはずです。そして豆乳やソイラテのような、高タンパク低カロリーを実践できる食品を日常に取り入れていくこと。それこそが、未来の健康を育てる一歩になると思っています。
編集後記
脂肪肝という言葉は聞いたことがあっても、それが「がん」に繋がるとは知らなかった人も多いのではないでしょうか。日々の飲み物や食事を少し意識するだけで、健康リスクを下げることができます。明日からの一杯を、少しだけ変えてみませんか。はじめてみましょう、ソイラテ習慣を。
