スポーツの秋到来、良質なたんぱく質の摂取とソイラテ生活のススメ

酷暑が終わり、スポーツには最適な季節が到来しました。健康的な生活を送るためにも、適度なスポーツに、バランスの取れた食事の摂取は重要です。そこで、今回は、がん研究と予防医学の分野で長年にわたり臨床・研究の両面から活躍され、特に肝臓がんの発症メカニズム生活習慣病との関連性に注目し、分子レベルでの解析を通じて、がんの予防・早期発見に貢献されている増富先生にお話をお伺いしました。増富先生は、子どもから大人まで幅広い世代に「正しい栄養知識」たんぱく質摂取や生活習慣改善をテーマに、最新の医学知見をわかりやすく社会に届けることを大切にされています。

運動直後はどうする?――“壊して修復する”筋肉に材料を

── 夏の暑さがひと段落し、スポーツをするにはよい季節になりました。今月は、「体育の日」があります。スポーツやトレーニング後の栄養補給としてはどのような食べ物が適しているのでしょうか。

増富先生:まずは、筋肉づくりに良い栄養を考えてみましょう。筋肉はたんぱく質を多く含み、エネルギーを貯蔵する場としても重要です。食事で摂取した栄養が余ると筋肉や肝臓でグリコーゲンとして蓄えられ、必要なときに分解されてエネルギー源となります。筋肉量が多いほど基礎代謝が高まり、太りにくい体にもつながります。また、運動や筋トレは、筋繊維を一旦壊し、修復で強くするプロセスがあります。その“修復素材”としてアミノ酸やたんぱく質の供給が不可欠です。運動中は即効性を期待してたんぱく質が分解された物質であるアミノ酸を積極的に摂取するとよいでしょう。そして運動後は、さっぱりした飲み物を選びがちですが、豆乳などのたんぱく質豊富な飲み物を摂取するという選択が適しています。粉末のプロテインを豆乳や牛乳などに混ぜたりすることもよいですし、身近な飲み物として、ソイラテというのも選択肢としてあります。

──なぜ、スポーツやトレーニング後の栄養補給としてソイラテがよいのですか?

増富先生:運動をすると、筋肉は多くの酸素を使ってエネルギーを生み出します。その過程で活性酸素という物質が発生します。活性酸素は過剰になると細胞や筋肉を傷つけ、疲労、炎症、老化などの原因となります。活性酸素が細胞に及ぼす悪影響を酸化ストレスと言う場合もあります。クロロゲン酸はコーヒーに多く含まれるポリフェノールの一種で、活性酸素を除去する抗酸化作用を持っています。スポーツ後にコーヒーを飲むことで、筋肉ダメージの軽減、炎症の抑制、回復の促進が期待できます。また、コーヒーに含まれるカフェインは、交感神経を刺激し、集中力を高めるだけではなく、脂肪の分解を促進してエネルギーとして利用しやすくします。これにより、運動中の運動能力の向上にも繋がる好影響がありますし、特に、ソイラテにすることで、良質な豆乳のたんぱく質が加わり、運動後のエネルギー補給と疲労回復がスムーズになります。また、豆乳などが加わると苦みが減り口当たりがよく飲みやすくなります。

──ソイラテは、コーヒー(エスプレッソ)と割るラテ以外にも様々な素材と割ることができますが、他には、どのようなものがよいでしょうか?

増富先生:抹茶×豆乳や高カカオ×豆乳などのようなアレンジもスポーツ後には有効だと思います。抹茶には、カテキンが含まれています。カテキンも、ポリフェノールの一種で、強い抗酸化作用があります。運動後に発生する活性酸素を除去し、筋肉疲労や炎症の軽減をサポートします。また、リラックス成分で、運動後の緊張をほぐし、心身の回復を助けるテアニン、そして、カフェインは疲労感を減らし、集中力を高める効果があります。つまり、抹茶と豆乳を合わせることで、抗酸化作用+筋肉回復という二重のメリットを得ることができます。

また、チョコレートと豆乳の組み合わせも良いでしょう。カカオポリフェノールは、強力な抗酸化作用をもっており、運動後の酸化ストレスや筋肉の炎症を抑えてくれます。また、カカオに豊富に含まれているマグネシウムが筋肉の収縮と弛緩に必要で、足のつりや疲労回復に役立ちます。さらにテオブロミンが血流を促進し、酸素と栄養を体中に届けやすくします。高カカオ×豆乳で、抗酸化作用+筋肉修復+血流促進が同時に得られ、運動後の疲労回復が効率的に進みます…という理由からも、抹茶やチョコレートと豆乳の組み合わせも、運動後にはよいでしょう。

「プロテイン=特別な粉」ではない?――まず“言葉の誤解”から

── 豆乳協会では、スポーツをしている高校生の皆さんに豆乳の協賛を行っています。その中で、「豆乳は飲まないけれどプロテインは飲んでいる」という高校生が多いというアンケート結果があります。そもそも“プロテイン”とは何なのでしょうか。

増富先生:プロテインは、英語で“たんぱく質”のことです。粉末(サプリ)も、肉や豆乳のたんぱく質も本質は同じです。「筋肉増強剤」のイメージがありますが誤解ですね。形態(粉末・液体・食品)が違うだけで、要はどれも、たんぱく質です。高校生くらいであれば、たんぱく質は、どんどん摂取してほしいものです。腎機能が正常なら、多少多めでも大きな問題は生じにくいと考えます。一方で、腎機能低下がある場合(例:ネフローゼ症候群、IgA腎症など)は、医師の指示でたんぱく質が制限されることがあります。過度に心配する必要はありませんが、学校健診などで尿異常を指摘された方は念のため必ず医師に相談して1日に摂取可能なたんぱく質量の指導を受けるようにしてください。

どのくらい摂ればよい?――運動量に応じた“目安”

── 例えば、高校生アスリートに向けた具体的な摂取量の目安を教えてください。

増富先生:腎機能に問題がないという前提で、成長期の高校生アスリートであれば体重1kgあたり1.2〜1.5g/日が最低必要量の目安です。とりわけ、運動部の人や体づくりを意識している人は体重1kgあたり2g/日まで増やすと良いでしょう。例えば、体重50kg で一日最低でも60〜75g。食品では、鶏ささみ100gで約25gのたんぱく質が摂取できますのでささみ換算で1日300g必要になります。粉末のプロテインサプリだけに偏らず、食事と併用してトータルで摂取量を計算するのが現実的です。ただ、「筋肉増強剤」としての“プロテイン”は、栄養面の補助にはなりますが、それだけでは食事の満足感や食育の観点では不足しています。おいしく、バランスよく摂ることを大切にしてほしいと思います。美味しい食事をバランスよく食べる、そのような食育も重要です。

食事を楽しむこと、それも大切な要素

── スポーツの秋ではありますが、一方で、食欲の秋でもあります。先生の視点から、食事をとる上でのたんぱく質との付き合い方について、教えてください。

増富先生:たんぱく質は、体の基本構成(細胞内に存在する酵素・筋肉・髪の毛・爪・結合組織など)成分という意味で、不足は避けるべきです。前にも述べましたが、豆乳に含まれるたんぱく質だけで、1日に必要なたんぱく質の目標量を満たすのは難しいです。様々な食品から摂取することが望ましいです。例えば、豆乳200mℓで約7〜8g程度のたんぱく質ですから、食事(肉・魚・卵・大豆)+豆乳という組み合わせで、1日の目標を積み上げる設計が現実的です。

── これからの季節に、お勧めの高たんぱく料理を教えてください。

増富先生:特に、これからの季節は、豆乳鍋が良いです。本当は豚肉が合いますが、脂肪が多めであることが気になる人もいます。また、筋肉をつけたい、でも美味しく食事も楽しみたい、そんな場合は、「鶏つくね」との相性が良いです。つくねも、鶏むね肉の方がよいでしょう。

編集後記

運動後の栄養補給やたんぱく質の重要性について貴重なお話をいただき、増富先生に心より感謝申し上げます。運動直後の筋肉は“壊して修復する”過程にあり、その回復を支えるたんぱく質や抗酸化成分の役割を改めて学ぶことができました。豆乳やソイラテをはじめ、手軽で美味しい栄養補給の選択肢を知ることで、スポーツと食事をより楽しむヒントとなれば幸いです。

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