【寄稿】 第一回「3大栄養素と有料・優良・飲料」
本記事は、国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野 分野長 増富 健吉先生より寄稿いただきました。
この度、豆乳協会の機関誌の『豆乳あるあるマップ』を執筆させていただく機会を頂きましたが、私の専門領域は「分子腫瘍学、生化学、腫瘍内科学」という一般の方にはほとんど馴染みのない分野です。このように、豆乳「学」では全くの門外漢の私がなぜ『豆乳あるあるマップ』を執筆することになったかについて少しお話ししましょう。
先に述べましたが、私の本職はがん研究であり、人の体の中で正常細胞がどのようにして「がん」になるのかを分子生物学や生化学という手法を用いて解明し、最終的には「がん」を治療する未だ見ぬ新薬を開発することです。その中で、私たちの研究内容を一般の方々に分かりやすく伝えるという活動(これを、アウトリーチ活動といいます)も大変重要な仕事の一つです。その背景には、我々の研究は国民の皆さんからの税金を原資にした研究費を基に進めているがゆえ、色々な機会に分かりやすく成果を説明することも大変に重要な責任の一つでもあります。
数年前の新型コロナウイルス感染拡大(COVID19)の際に、多くの人には馴染みのない「PCR」とか「抗原検査」とかいう難解な言葉の解説を通して新たな感染症に対する知識を噛み砕いて伝えることでアウトリーチ活動の一環にしようと思いました。ある女性週刊誌の編集長である友人の好意で連載コラムのスペースを頂き、がん、感染症、健康など広く医療全般のコラムを書き始めました。その中で、豆乳関係者とはなんの利害関係もない私は、独自の発想で公平公正に「豆乳及びソイラテの良さに関する健康コラム」を書いたのですが、どうやらこのコラムが豆乳協会の方々の目にとまり琴線に触れたようです。この機会に「豆乳」の魅力を私なりの観点から数回に分けて連載形式で書いていこうと思います。

最初の回は、栄養学的な観点で「豆乳」についてです。
皆さんは、3大栄養素という言葉をご存知でしょうか?炭水化物、たんぱく質、脂質の3つを3大栄養素と言います。豆乳の魅力を語る上で最も大切なのがたんぱく質です。
その前に、炭水化物は、ご飯やパンという世界中の人々がそれぞれの地域に特徴的な糖質源を主食として摂取する食べ物(日本なら米、パスタやパンの国では小麦、その他、とうもろこし、芋などを主食とする国もあります)から得られる栄養素で、短期的即効性のあるエネルギーとして利用するための栄養源です。簡単に言えば日常生活で筋肉を動かすために必要なエネルギーです。
脂質は、細胞の膜の構成などには必要ですが、あまりたくさん摂取する必要はない栄養素です。その割にはカロリーの高い栄養素で摂りすぎると摂取カロリーのオーバーに寄与してしまうので取扱注意の栄養素です。
さて本題のたんぱく質ですが、たんぱく質は筋肉、骨、髪の毛、爪、もっと言えば一つ一つの細胞の中にある酵素群などほぼ全ての生体内の物質がたんぱく質でできています。もう少し噛み砕いて言えば、「人間はたんぱく質でできている」、「人間はたんぱく質を合成するために生きている」と言っても過言ではありません。すなわち、「たんぱく質を体内で作ることが生命活動の根源」ともいえます。それでは、このたんぱく質の材料はどこからどうやって持ってくるのかというと、人間の場合たんぱく質を食べて消化分解して新たに体内で合成するのです。そのために我々はたんぱく質を食べることが必要なのです。
このたんぱく質ですが、大きく分けて、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質に分けることができます。動物性たんぱく質はいわゆる肉や魚という動物由来のたんぱく質、一方で植物性たんぱく質は大豆、ブロッコリーなどの穀物や植物に含まれているたんぱく質です。

さて、ここで皆さんの関心の「たんぱく質含有量の王者」についてお話ししましょう。動物性たんぱく質ではささみ、鳥の胸肉、牛肉赤身、マグロ赤身、白身魚、鯨肉赤身などなどが君臨してきます。何かお気づきになりませんか?「赤身」とか「ささみ、胸肉」といったように脂肪の極力少ないものが王者なのです。先ほど記載しましたが、脂肪はカロリーが高く「取扱注意」栄養素だと言いました。少量の摂取で十分な脂肪なのですが意外と「他のものにひっついて、混ざってこっそりとついてくる脂肪」は少し厄介ものです。
一方で、植物性たんぱく質の王者といえばなんと言っても「大豆」です。たんぱく質含有量では前述のささみや赤身を上回る量を含みます。大豆をバリバリと噛み砕いて食べるのもいいのですが、どうしても厄介者の脂肪も「ついてきます」。また、お肉に相当する量を大豆だけで食べるのも少し大変です。しかしながら日本には大豆のいいところを集めた塊である豆腐があります。豆腐はその製造過程で大豆の脂肪成分がほとんど除去されているのですが、豆腐は水の含有量が多く、必要なたんぱく質量を摂取しようとすれば大量に豆腐を食べる必要があります。
では、どうすればいいか?ここで豆乳が登場します。豆乳は大豆をバリバリと食べる困難さ、豆腐を大量に食べる困難さの双方を克服した有料・優良・飲料なのです。無理のない量の摂取で、簡単に、効率的に、肉にも負けない量を摂取できる食材として豆乳は上位にくる食材といえます。動物性たんぱく質を含む有料・優良・飲料である牛乳と比べても3大栄養素の含有バランスの成績は良いといえます。
全ての生きる物(ウイルスから人間までの全生物)の生命現象の根源である「たんぱく質合成」の材料となるたんぱく質を、人間は食べることで補っています。たんぱく質のより効率的な摂取のために豆乳は優れた食材の一つであることを今日はお話ししました。
