【寄稿】第5回:筋肉論(1)
本記事は、国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野 分野長 増富 健吉先生より寄稿いただきました。

近年、健康志向の高まりを背景に、筋力トレーニングやピラティス、ヨガなど、筋肉づくりや体づくりへの関心が幅広い世代で高まっています。笹川スポーツ財団「スポーツライフ・データ2024」によると、2024年に年1回以上筋力トレーニングを実施した人は約1,629万人と推計され、2000年(約726万人)の2倍以上に増加しました。また、帝国データバンクによると、2024年度のフィットネス市場は約7,100億円と過去最高水準に達する見込みで、筋トレは一時的なブームではなく、健康習慣として定着しつつあります。スポーツやボディメイクだけではなく、健康寿命の延伸やフレイル予防の観点からも、「筋肉を維持すること」の重要性が注目されています。
筋肉づくりというとトレーニングばかりに目が向きがちですが、その土台となるのが毎日の食事です。筋肉の材料となるたんぱく質を十分に摂取することはもちろん、無理なく継続できる食生活も大切です。今回は、筋肉の種類や役割について、国立がん研究センター研究所・がん幹細胞研究分野 分野長の増富健吉先生にご寄稿いただきました。
これまで、筋肉の原料となるタンパク質について中心にお話ししましたが、今回と次回にわけて少し筋肉についてお話ししましょう。筋肉の分類には色々な方法がありますが、分類方法を整理整頓して考えれば筋肉のことが理解しやすくなります。
最近、手軽に筋トレができるトレーニングジムがたくさんできていますが、それに負けないくらい多く目にするのがピラティスやヨガの道場。先日、知人に勧められて一度ピラティスを体験してみました。耳学問で習った範囲では、「ピラティスさんという方が開発したインナーマッスルを鍛える筋肉論」とのことで、そもそもは、ベッドのスプリングを利用してリハビリ運動をするために開発されたとか。では、この「インナーマッスル」とは一体何なのか?先に述べた筋肉の一分類法で「インナーマッスルとくれば、アウターマッスル」。
アウターマッスルはいわゆる筋トレマッチョが鍛える表層の筋肉。肥大した大きな筋肉を身に纏いマッチョ化を目指しダンベルやバーベルを持ち上げる「あの筋肉」です。若い頃は、筋トレマッチョにあこがれて筋肉肥大を狙い、鏡の前で少しポーズを決めるのが常ですが、だんだん年齢が上がると、関節が痛み、筋肉の肥大も維持が難しくなるという方も多いと思います。また、女性などは筋肉ムキムキなんて全然目指していないという方も多いでしょう。そのような、「もうピークを過ぎた元筋トレマッチョ」や「筋肉要らないけれど引き締まりたい女性」にお勧めと言われているのがインナーマッスルを鍛えるピラティスやヨガです。

インナーマッスルは深層筋、体幹筋などといわれる筋肉で、表面から見えない、また自分の意思で動かすことのできない筋肉です。地味で目立たない筋肉ですが実は大切な筋肉です。例えば、「ゴルフは体幹が大切」「骨盤底筋を鍛えて尿漏れ防止」「コアを鍛えることで当たりが強くなる」「ジャンプでの滞空時のバランス感覚がいい」などの表現を聞いたことがあると思いますが、こうした表現に関わってくる「筋肉」がすなわち「インナーマッスル」です。アウターマッスルが骨や関節といった運動器そのものを支える筋肉である一方、インナーマッスルは骨盤や内臓、関節の深部を支える筋肉とイメージしてください。このインナーマッスルを鍛える方法の一つがピラティスです。インナーマッスルは自分の意思で動かすことができないので、ピラティスではインナーマッスルを動かす呼吸法をまず体得するようです。私自身の二度のトレーニング体験ではまだ呼吸法は体得できていませんが、私見ではこの呼吸法が最も大切なのではないかと思っています。インナーマッスルを鍛えるメリットは他にもあるようで、最近の研究によれば、トップアスリートがインナーマッスルを鍛えることで重篤な怪我の予防につながるとか、入院患者さんのリハビリに導入することでより効率的なリハビリにつながる等の報告もあり、とりわけ整形外科領域で注目されているようです。
さて、このインナーマッスル、何でできているかというとやはり、タンパク質です。そして筋肉収縮のメカニズムも体表にある筋トレで鍛える筋肉と全く同じです。インナーマッスルの維持やトレーニングにもやはりタンパク質は欠かすことのできない栄養素です。筋肉は運動によって刺激を受けるだけでなく、常に合成と分解を繰り返しており、その材料となるアミノ酸を毎日の食事から十分に補給することが重要です。せっかくトレーニングを行っても、タンパク質の摂取が不足していては筋肉の修復や維持が十分に行われず、期待する効果が得られにくくなります。特に加齢とともに筋肉を合成する力は低下することが知られているため、若い頃以上に日々の食事で良質なタンパク質を意識して摂ることが大切になります。通常の筋トレに加えてインナーマッスルのトレーニングも取り入れてタンパク質豊富な食事(高タンパク低カロリーで良質なタンパク質補給)で、怪我をしない身体作り、引き締まった身体作り、健康長寿などそれぞれの目標を目指すのもありかもしれません。

筋肉を育て、維持するためには、適度な運動と毎日のたんぱく質補給を継続することが大切です。豆乳は植物性たんぱく質を手軽に摂取できる食品として、朝食や運動後、間食などさまざまなシーンで取り入れやすい食品です。
筋トレに励む方だけでなく、健康づくりや体力維持を目指す方も、毎日の食生活に豆乳を上手に取り入れながら、運動と栄養をバランスよく組み合わせた健康習慣を続けてみてはいかがでしょうか。
